
日本では、外国人や異なる文化的背景をもつ人々に対する差別や偏見が、若年層の間にも依然として存在しています。その背景には、他国の人々や社会課題について知り、対話する機会の不足があると考えられます。
本プロジェクトでは、こうした課題意識を出発点として、日本と韓国の高校生がオンラインで交流し、環境問題や少子高齢化など両国に共通する社会問題について議論するワークショップを実施しました。異なる背景をもつ参加者同士が意見を交わす中で、同じ国の人同士では気づきにくい視点や新たな発想が生まれ、国際協働の意義を実感する機会となりました。この記事では、日韓ワークショップの実践を通して見えてきた若者の意識の変化や学びをもとに、多文化共生社会の実現に向けた「草の根育成」の重要性について考察します。
第1章 はじめに
第1節 自身の経験から見たプロジェクトの出発点
筆者は、日本と大韓民国の二重国籍者として育つ中で、差別や偏見に直面してきました。こうした経験が、多文化共生社会に対する問題意識の原点となっています。
この背景から、高校生活では多文化共生をテーマとした探究活動に取り組みました。国際交流や探究型留学支援プログラムに参加し、異なる価値観に触れることで国際的な視点を身につけるとともに、日本と海外における多文化共生意識の違いについて比較調査を行い、国際的な「環境づくり」の場を設けたいと考えました。
また、文化の違いを認めるだけでなく、共通点を見いだしながら相互理解を深めることの重要性を実感しました。その結果、日韓の高校生が社会問題を共有し、協働して解決策を探るワークショップを企画しました。
以上より、本プロジェクトは、多文化共生社会の実現に向け、若い世代を対象とした「草の根的」な人材育成を目的とする実践的な取り組みです。
第2章 プロジェクトの背景と目的
第1節 日本における差別・偏見の現状と要因
日本において、「外国人に対する差別や偏見」は解決すべき社会課題の一つであると考えます。出典の調査では、日本人の68.3%が、外国人への偏見や差別を「ある」と感じており、特に15〜34歳の若年層でその割合が高いことが示されています。
その要因として、外国人と関わる機会の不足が挙げられます。実際に73.5%が「交流する場やきっかけがない」と回答しており、差別をなくすためには「交流の場の拡充」や「共生に関する教育」の必要性が指摘されています。
このことから、差別や偏見は個人の意識だけでなく、互いを知る機会が少ない社会環境によって助長されている可能性が高いと考えられます。したがって、国際社会において、多文化理解を促進する交流の場を積極的に設けること=「環境づくり」が求められると考えました。

※詳しい情報・正確な数値については、以下の出典資料をご確認ください。
出典:『外国人との共生に関する意識調査(日本人対象)報告書』 令和 6 年3 月 株式会社 サーベイリサーチセンター:https://www.moj.go.jp/isa/content/001416010.pdf
第2節 プロジェクトの目的
① 本プロジェクトの目的は、日本と韓国の高校生が交流を通じて異文化理解を深め、多文化共生社会の実現に向けたグローバルな視点を得ることです。
② また、異なる文化的背景を持つ者同士で協働し、価値観を共有しながら社会問題を考えることで、多面的な視点や新たな気づきが生まれる点に本プロジェクトの特徴があります。
多様な要素が組み合わさり、新しい相乗効果を生み出すものとして、私はこれを「化学反応」と名づけ、定義しました。

第3節 プロジェクトの方法と全体像
本プロジェクトの短期的な方法として、約30名の日韓の高校生が交流を通じて国際的な社会問題に協働で取り組む意義を実感し、相互理解を深める「日韓ワークショップ」を実施しました。
両国の高校生が約5人の日韓混成チームに分かれ、オンライン(Zoom)で共通した社会問題の解決案を構築するディスカッション・プレゼンテーションを約 3 ヶ月間に渡って行いました。
長期的には、将来の日韓関係や国際社会を担う若い世代の育成を目指し、多文化共生社会の基盤づくりに貢献することを目的としています。
第3章 日韓ワークショップ(第1〜4回)の実践
第1節 企画準備と工夫した教材
企画段階から交流校と連携し、円滑な議論が行えるよう教材や資料を準備しました。
社会問題としては、環境問題、経済問題、人権・平等問題など、両国に共通するテーマを設定し、SDGsの視点を取り入れました。また、商品開発や制度設計、テクノロジー活用など複数のアプローチを提示し、議論の幅を広げました。
さらに、相手国の立場で調査を行うよう促すことで、相手国の視点や立場に基づいた理解が深まることを期待しました。


第2節 第1〜4回ワークショップの実施概要
第1回では、自己紹介やミニゲームを通して親睦を深めた後、日韓共通の社会問題について話し合いました。
第2回では調査結果を共有し、課題を絞り込みました。
第3回では解決策を中心に議論を進め、環境問題へのアプリ開発や少子高齢化への政策的・教育的アプローチが提案されました。
第4回では意見を整理し、再生可能エネルギー分野での協働や教育と政策の連携など、最終的な解決策をまとめました。


第3節 参加生徒の反応と変化
参加生徒は、共通する課題がある一方で、国によって捉え方や対策が異なることに気づきました。その中で、互いの強みを生かそうとする姿勢が見られるようになりました。
また、言語の壁があっても積極的に意思疎通を図り、相手の意見を尊重しながら議論する態度が定着しました。社会問題に対する関心や解決への意欲も高まり、互いの異なる視点や価値観に刺激を受けました。
第4節 ワークショップの振り返り(本章のまとめ)
プロジェクトを通して自己にも大きな変容があり、同じ社会問題でも国ごとに背景や価値観が異なることに気づきました。また、問題を多角的に捉える視点の重要性も実感し、「国際協働」に関する新しい視点や価値観を構築するきっかけとなりました。
第4章 成果発表の分析
第1節 ワークショップの発表内容
成果発表では、各グループが以下の点について整理し、発表を行いました。
① 日韓それぞれの社会問題に関する調査内容
② 共通課題として設定した社会問題と、その理由
③ 調査・議論の内容と具体例
④ 解決に向けたアプローチ案
⑤ ワークショップを通して得た学びや価値観の変化

第2節 ①ワークショップの成果
参加者は、それぞれ異なる社会課題に対して多角的に取り組みました。原子力問題を扱ったグループでは、廃棄物処理や放射線管理、再生可能エネルギーの可能性を調査し、他国との協力や蓄電技術の共有を提案しました。
また、地球温暖化やプラスチックごみ問題を扱ったグループは、環境意識を高めるアプリの開発を構想しました。例えば、日常生活の情報を入力することで二酸化炭素排出量を可視化し、個人の環境行動を促すものや、ゲーム感覚で温暖化対策に参加できる仕組み、若年層への環境教育などが見られました。


少子高齢化問題に取り組んだグループでは、未婚率の上昇や教育・育児費負担を分析し、教育制度の改善や経済支援策を提案しました。このほか、バリアフリーやスポーツと人権問題など、多様なテーマが扱われました。
これらの成果から、参加者が主体的かつ創造的に社会課題と向き合っていたことがうかがえます。
第2節 ② 分析結果
交流を通して、参加者は国際協働の重要性を強く実感しました。同世代の外国人と社会問題について議論する中で、共通課題への関心が高まり、相手国への理解も深まりました。
また、言語の違いによる難しさを感じながらも、伝えようとする姿勢の大切さを学び、語学学習やコミュニケーションへの意欲が高まった点も大きな変化です。これらの経験は、将来国際的に協働するための意識形成につながっています。
第3節 成果の検証
① 差別・偏見に対する意識の変化
交流前は、歴史的背景や政治的な問題から相手と打ち解けることは難しいと感じていた生徒が多く見られました。
ところが、実際に韓国の同年代の生徒と対話し意見を交わす中で、人当たりの良さや温かさを感じ、偏見がなくなったと答える意見が多く寄せられました。
教科書やニュースを通じて得る知識だけでは足りず、直接の交流を通じた対話こそが異なる文化や価値観を理解するために大切な学びであると実感したようです。
また、より深く韓国の人々との関係を築きたいという前向きな気持ちも生まれました。
これらにより、異なる文化や価値観を理解するには、実際に交流し対話することが不可欠であり、未来に向けて協力し合える関係を築く意欲につながることが確認されました。
② 国際協働から得た学び
本ワークショップを通して、参加者は日本と韓国に共通する社会課題が多く存在することに気づきました。同じ社会問題であっても、異なる文化的背景をもつ相手と協働することで、自らの発想だけでは得られない多様な考え方や新たな視点に触れました。これは、生徒の思考や価値観を刺激し、国際協働に対する理解を深めるきっかけとなったと考えられます。
参加者からは、「自分一人では思いつかないアイディアに出会えた」といった感想が寄せられ、異なる視点をもつ相手と協力することの大切さを体感する機会となったことがうかがえます。
また、参加者にとっては、現状を知ることの大切さを学び、新しい考え方や視点を広げるきっかけとなりました。こうした経験を通して、社会問題は一国だけで解決できるものではなく、国際的な視点や協力が不可欠であるという認識をもつようになったことも特徴的です。
よって、異なる文化的背景をもつ相手と実際に協働する環境を経験したことで、他国と共に課題に向き合おうとする姿勢が育まれ、両国の関係が深まったと考えられます。
③ その他の印象的な意見
参加者の多くは、互いの文化に興味やリスペクトを持ち、前向きな雰囲気で活動できたと振り返っています。文化交流によって、理解が深まった様子も見られました。
異なる文化や価値観の中で社会問題について議論した経験は強く印象に残り、同世代の生徒が真剣に課題と向き合う姿に刺激を受けたという声もありました。
言語の壁はありましたが、ジェスチャーなどを工夫しながら意思疎通を図り、交流を通じて距離が縮まったと感じる参加者が多く見られました。
第4節 定性評価による本章のまとめ
アンケートの定性評価から、プロジェクトの目的で期待していた内容を実現することができたと考えます。
参加者の生徒は、歴史的な課題や偏見を超えて直接交流し、相互理解を深めました。また、異なる視点で意見を交わすことで、新たなアイデアが生まれ、国際協働の重要性も実感しました。
このように、生徒たちは積極的に交流に取り組み、共創的な取り組みが実現しました。
こうした取り組みは、日韓関係の発展や若い世代の相互理解と信頼を深める(特に若年層)=「草の根育成」につながるものだと考えます。

第5章 総括と今後の展望
第1節 プロジェクトの考察・分析
本ワークショップは、差別や偏見という課題に対して、交流を通じた有効なアプローチとなりました。参加者が親睦を深めながら議論する姿は、互いの理解を深める有効な機会となっていたと考えます。
また、共通課題に協働で取り組む経験は、グローバルな視点を持つ人材形成につながり、将来的な日韓関係の発展にも寄与すると考えられます。
さらに、この活動は自分自身にも大きな変化をもたらしました。二重国籍者として、差別や偏見により苦しい思いをした経験がありましたが、活動を通して積極的に交流しようとする生徒の姿に感動し、自身が抱いてきた課題意識と向き合うことができました。この経験は、自分にとって非常に大きな意味をもつものとなりました。
第2節 プロジェクトの反省・課題
運営面では、様々な課題がありました。国境を越えたオンライン交流という特性から多くの困難がありましたが、進行の工夫や通訳を行い、参加者の積極的な対話と教員の支援によって、多様な意見を共有する有意義な活動となり、最終的にワークショップは成功したと考えています。
第3節 今後の展望
今回の活動を基に、今後も国際交流や多文化共生に貢献する取り組みを続けていきます。将来的には日韓に限らず多国間交流へと発展させ、より多くの人が関心を持てる形で国際的な課題に向き合っていきたいと考えています。
第6章 探究活動の総括と自身の変容
本探究を通して、社会課題に主体的に向き合い、行動することで社会に影響を与えられることを実感しました。自身の背景から生まれた問題意識を、具体的な行動につなげられたことは大きな学びです。
この経験を生かし、今後も社会課題に積極的に取り組み、将来は国際社会に貢献できる存在になりたいと考えています。

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